第9章 心に残る話 第40話「親孝行」
「今から山に行ってくる」と言うと、母が
「水筒と握り飯を持ってゆけ」と言う
「近いあの山ですよ」と指さして言うが
どうしても持ってゆけという
ちょうど居合わせた兄が
「親孝行だ、持ってゆけ」と小さな声で言うので
それではと、握り飯と水筒を持って出かけた
そうして、私は無事に、まだ明るいうちに戻ってきた
母が「どうだった」と、居間から出てきて
安心した顔で話しかけた
それで「大変助かりました」と言うと、とても喜んで
「今後も握り飯と水筒は持ってゆけ」と言った
母が居間に戻って行ったとき
兄が「お前は親孝行したよ」と言ったとき
私は、何故となく涙があふれた
この兄は二十いくつかで死んだ