昭和40年代の営林局機関誌から選んだ「名作50話」

このブログは、昭和40年代に全国の営林局が発行した機関誌の中から、現場での苦労話や楽しい出来事、懐かしい思い出話などを選りすぐり編纂したものです。

第9章 心に残る話 第40話「親孝行」

「今から山に行ってくる」と言うと、母が

「水筒と握り飯を持ってゆけ」と言う

「近いあの山ですよ」と指さして言うが

どうしても持ってゆけという

 

ちょうど居合わせた兄が

「親孝行だ、持ってゆけ」と小さな声で言うので

それではと、握り飯と水筒を持って出かけた

そうして、私は無事に、まだ明るいうちに戻ってきた

 

母が「どうだった」と、居間から出てきて

安心した顔で話しかけた

それで「大変助かりました」と言うと、とても喜んで

「今後も握り飯と水筒は持ってゆけ」と言った

 

母が居間に戻って行ったとき

兄が「お前は親孝行したよ」と言ったとき        

私は、何故となく涙があふれた

この兄は二十いくつかで死んだ

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