第9章 心に残る話 第48話「一級精勤賞を受賞して」
明治改元の記念すべき年に一級精勤賞受賞者の一人に名を連ね、代表として答辞を述べること、身に余る光栄である。
もう四十年も経たのであろうか、と余りにも短く感じられ、過ぎし日を振り返る。
時の担当区さんから、試験林の伐採方法が悪いとえらく叱られたことや、軍用材の流送中、豪雨による増水で何キロもの下流まで流木を探し回ったこと。
また、食糧がないので、実家から書籍として餅を送ってもらったことや、更には、届いたこんにゃくイモをもとに皆でこんにゃく作りをしたことなど、色々な出来事を思い出すが、幸いにして健康に恵まれ、何の事故もなく過ごせたことにあらためて深く感謝している。
十三歳の時に父が急死し、その後、母の手で育った数年間、家の事業のせいもあって借金が急激に嵩んだ。幸い、四百立方メートルあったスギ林を売り払い、我が家の経済危機を切り抜けたことから、山林の有り難さは身にしみている。
ある署長が三惚れとして
「自分の職に惚れろ」
「自分の女房に惚れろ」
「自分の任地に惚れろ」
と説かれたことを記憶しているが、三惚れに徹して感謝の日々を送れることは、営林署に勤めたことがその因をなしていると思う。
「まごごろをもって事に当たる」をモットーにして全力を尽くしてきたつもりであるが、時には曲解され、恨まれることもあった。しかし、いつかは分かってもらえる。
平凡であるが、まごころをもって事に当たって行きたいと思う。