昭和40年代の営林局機関誌から選んだ「名作50話」

このブログは、昭和40年代に全国の営林局が発行した機関誌の中から、現場での苦労話や楽しい出来事、懐かしい思い出話などを選りすぐり編纂したものです。

第6章 地元と国有林 第31話「なめこ栽培」

私が真室川営林署に勤務していた時のことである。大量のブナを択伐で売り払ったことがあるが、伐採して用材を搬出した後、残された枝条が千五百立方近くとなったため、部落ではこれを利用してなめこを栽培することとなった。 杣小屋に十人以上が泊まり込み、…

第6章 地元と国有林 第30話「下戸談話」

山官となって山の事業所勤務を命ぜられたが、当時の山官には酒豪が多く、また、事業所を訪れる人々もほとんどが酒の強者ばかりであった。 歓迎会、送別会、会合の後などはもとより、出張先の宿屋でも必ず宴席が設けられ、酒を強いられる。盃一杯で心臓が破裂…

第6章 地元と国有林 第29話「山の神」

山の神を祭る日取りは、必ずしも定まっていない。正月には初山、二月は春の山祭り、十二月は秋の山神祭が取り行われてきたが、いつのまにか大方の祭事が省かれ、今では事業に着手するときに入山式、終了したときに下山式が行われるに過ぎない。 入山式には鹿…

第6章 地元と国有林 第28話「初雪の木曽谷」

「管理官の急用は、いつも深夜の電話から始まる」 木曽谷の駐在とは会う度毎にこう言われる。本当に申し訳ないと思うが、田島から奧、八百余人の大世帯を世話しているのは営林署の事業用電話しかない。このため、事故が起きるとこうして駐在に電話をかける訳…

第6章 地元と国有林 第27話「ドブロク」

毎年、年の瀬もおしつまる十二月十五日は、村の若い衆が一番心待ちにしている恒例の行事がある。村の家々から集められた米で作ったドブロクを、皆が集まり飲むのである。 もう十七、八年前の話ではっきりとは覚えていないが、私は村の何か役員をやっており、…

第5章 女性から 第26話「男性職員への注文」

つい先頃の婦人雑誌に「夫は妻に何を望み、妻は夫に何を望んでいるか」という記事がありましたが、男性が九割以上を占めている現在の職場で、職場の中でみる男性について私なりに観察し、注文をつけるとしたらどうでしょうか。 毎朝、機械のように出勤して一…

第5章 女性から 第25話「主婦の随想『十二年のくらし』」

「お父さん、もう土岐のやまには、どこにも仕事をするところがないの?」 「うん」 「じゃあ、土岐はすっかり緑になってしまったのね」 「うん、そうらしいな」 「それじゃ、いままで現場で働いていた人たちは、これからどうなさるの?」 「・・・」 これは…

第4章 仕事と趣味 第24話「釣魚賛歌」

渓流の岩陰から、泡立つ淵目がけて愛竿を振る。理屈も何もいらない。それだけで満足である。 川鳥が川面をすれすれに飛んでは岩陰に隠れる。淵の上の梢に止まっているカワセミが真下に飛び小魚をくちばしにはさんでいく。 こんな日はたいてい鈞果良好と判断…

第4章 仕事と趣味 第23話「日本シダの会採取記」

第五回日本シダの会採集会が、屋久島につぐシダの宝庫として知られる薩肥国境の大口市布計国有林において、徳島と九州各県から約四十人が参加して盛大に開催された。 北薩の 布計の深山に 集い来し 吾等シダ人 まなこ輝く 布計駅前から小学校の方に採取に向…

第4章 仕事と趣味 第22話「熊撃ち」

「旦那さん、熊狩りにいかネスか。奧の部落の人方が是非にって」 と前の日の昼下がりに声がかかる。 興味津々である。 早速鉛の実弾を用意し、金かんじき、防寒着等の準備を始める。 翌朝五時、快晴。 頑丈な体つきの若者に交じって、部落の長の命令のもと出…

第4章 仕事と趣味 第21話「スポーツ王国 青森林友」

青森営林局が「青森林友」の名の下にスポーツ各界に目覚ましい活躍を遂げたのは、昭和初期から太平洋戦争が起こった翌年の昭和一七年までである。スポーツ王国を誇った青森林友も、太平洋戦争で息の根を止められた。 もっとも、戦後、野球部やスキー部はいち…

第3章 営林署から 第20話「ある見送り」

私が現場にいた時、一人の署長が退職した。誠実で責任感が強く、本当に人徳豊かな人物であっただけに、突然の退職は惜しまれるところがあった。 いよいよ任地を去る日に、見送りに行くべく単車の準備をしていると苗木が送られてきた。時間が差し迫っていたが…

第3章 営林署から 第19話「奥日光のシカ」

私は、国有林の仕事を通じて、妙に動物たちとつきあうことが多かった。 シカとイタチとウシ。そして、これは間接的ではあるが国際保護鳥のトキである。 シカは狩猟用として、イタチは野ネズミ退治用として、ウシは肉用牛として、それぞれの増殖に携わり、ま…

第3章 営林署から 第18話「もしもし、ここの渓谷の植物は採ってはいけませんよ」

観光地を訪れる登山客、散策者は十人十色、千差万別である。 登山道にしゃがみ込み、可憐な草花をじっくり眺めては立ち去るマナーの良い人もいれば、ビニール袋を取り出しては「ちょっと失敬」と持ち去ろうとする人もいる。 本格的な盗掘行為はさておき、国…

第3章 営林署から 第17話「山火事」

四月も下旬に入り、萌黄色の若葉が山々を包み始めると、山火事の危険は一応薄らぐ。 瀬戸内地方の山火事は、三月をピークに一月から三月にかけて集中的に発生しており、四月に入ると急激に減少する。 しかしながら、昭和四十六年四月二十七日昼過ぎ、「大積…

第3章 営林署から 第16話「公売雑感」

公売会場に一歩足を踏み入れると、そこは、タバコの煙がもうもうと立ちこめる別世界。喧噪やかましく、百人を越す業者の人たちの声でざわめく。営林署の係官が札を整理し、結果を発表する直前までこの状態が続く。 「ただ今から入札結果を発表します」 会場…

第3章 営林署から 第15話「えりもの治山事業」

えりもは、今から約三百年前の寛文年間には既に和人が移住し、海藻類や魚介の採取によって生計を立てていたと伝えられる。その頃、現在の国有林はまだ未開地であり、高台はカシワやミズナラ、低地はヤナギやハンノキを主体とする広葉樹林であったが、風雪に…

第3章 営林署から 第14話「出納員哀歌」

営林署の経理課にいると、必然的にやらなければならない仕事の中に支払いがある。 現金出納員として、此方の谷の部落からそちらの野辺の部落へ、山を越え、谷を横切って、国有林の仕事に出役した人達の賃金を支払って回るのである。 また、現場で購入した石…

第2章 営林局から 第13話「林業体操」

午後三時きっかり。 スピーカーから林業体操前奏曲の軽快なメロディが流れてくる。皆が一斉にペンや計算機を置いて立ち上がる。そこで聞き覚えのある局福利厚生課課長補佐の田畑さんの声が入ってくる。 「さあ、元気で林業体操を始めましょう」 続いてあまり…

第2章 営林局から 第12話「保安林買い入れ調査」

昭和二十九年度から始まった保安林買い入れも今年で十四年目。今回の買い入れ予定地は標高四百メートルから千百メートルまでの、約一千ヘクタールの天然林である。 現地調査は五月末から九月上旬まで、五人の調査員が各人八十日の予定で行う。作業は境界確定…

第2章 営林局から 第11話「狐の山案内」

ある営林署の林況調査に出かけたときのことである。 いつものように案内人を一人連れ、午前中は何事もなく調査を終わり、本流の河原まで降りて昼食をとった。真夏の暑い日であった。案内人がイワナを見つけて手づかみにし、晩の肴にということで笹の葉に包ん…

第2章 営林局から 第10話「五つの湖に女性の名を残す」

国有林の「事業図」は営林署ごとに作成され、地形や森林の現況が克明に記入されている。職員が山に入るとき、姿なき山案内として大切な役目を果たすものである。 かつては、営林局計画課の職員が、半年あまりも山の中にテントを張り、現地踏査をして事業図を…

第2章 営林局から 第9話「黒部の測量隊」

ここに、十数人のたくましい男たちがいる。 彼らは五年間にわたって、夏の数十日を人跡未踏というべき僻村の山で過ごした。道をつけ橋を渡し、テントを張り便所を作り、自家発電所とドラムカンの浴場までしつらえると、いよいよ仕事にとりかかる。 その仕事…

第1章 現場から 第8話「担当区主任」

営林署の担当区は、たいがい本署から離れた村落に位置し、比較的小さな部落にあることが多い。部落の住民とは各種事業の雇用や、自家用薪炭の売払などで密接に結ばれているが、従前のように官尊民卑の気質はなくなったとしても、純朴な住民にはまだまだ担当…

第1章 現場から 第7話「わしらの植えた山はどうなったろう」

明治三二年から大正十年までの国有林野特別経営事業は、我が国はもとより、世界の林政史上においても特筆すべき大事業であった。この事業の完成によって、国有林経営の基礎が出来上がり、今日の国有林野事業特別会計の大きな財源となっていることは今更言う…

第1章 現場から 第6話「冬のパイロットフォレストを守る人たち」

標茶営林署から二十二キロメートル。湿原地帯に阻まれたため、かつては人跡未踏と言われたこの無立木地も七千二百ヘクタール余りの巨大な造林地となった。 事業の最盛期にはたくましい機械の音に加え、連日、見学に訪れる人たちで活気を呈するこのパイロット…

第1章 現場から 第5話「昼のいこい」

担当区主任の楽しみの一つに、現場の作業員と食べる昼食がある。 午前中の仕事の疲れをとり、空腹を満たす。この時間の仕事の話に混じった雑談がまた面白いもので、飲む話から食べる話、遊ぶ話にさては女性の話と、時がたつのも忘れるほどである。 「主任さ…

第1章 現場から 第4話「ナンコ」

発電所が鳴らす五時のサイレンが聞こえてくると、短い冬の日の太陽は、早くも峰筋の保護樹帯の上に傾いていた。 二十ヘクタールに及ぶこの小班の植え付けは今日で全部終わり、明日からの作業は反対側の谷へと移動する。 「寒いなあ、一杯やろうか。今日でこ…

第1章 現場から 第3話「雑草に挑む」

五時三十分に雨戸を開ける。家の前には標高四百メートルの前岳国有林。 その頂きには朝日が当たり、空は青く澄んで雲ひとつない。 今日で何日、雨が降らないのであろうか。 慌ただしく朝食を済ますと車に飛び乗り、作業現場へと急ぐ。林道の終点から、谷川に…

第1章 現場から 第2話「不思議な灯」

昭和二七年十月。当時私は、鳥取営林署管内の霧ヶ滝森林鉄道敷設工事の監督補助員として、主任と共に現場近くの山小屋に起居していた。 バスの終点である田中部落から二キロ奧に貯木場があり、そこから森林鉄道で再び二キロ上がった川向かいにその山小屋があ…