昭和40年代の営林局機関誌から選んだ「名作50話」

このブログは、昭和40年代に全国の営林局が発行した機関誌の中から、現場での苦労話や楽しい出来事、懐かしい思い出話などを選りすぐり編纂したものです。

第9章 心に残る話 第46話「外野席から」

昔から、「山官」という言葉があった。 誰がつけたか知らないが、山を守り木を育てる者の純朴な、また一歩ずつ踏みしめて行く地道さを端的に表した親しむべき愛称である。 山へ行けば空気もうまいし水も清らかで、本当に身も心も洗い清められる。この清純な…

第9章 心に残る話 第45話「白髪のモッコス老人」

私が署長として着任して間もないある日のこと。この地の篤林家で一徹ものと知られる老人から電話を受けた。 「署長さん、横道峠の造林地には、カヅラが巻き付いたままで二、三年放置されている所があるが、あれでは木がかわいそうだ。なんとかしてくれ」 意…

第9章 心に残る話 第44話「山のことわざ」

一本切って百本植えよ 一本の木を切ったら、お返しに百本の苗木を植えるほどの気構えで植林に励めという意味であろうが、それでは前進がないので、一本切って収入をあげたら、新たに土地を求めて百本植林せよという、積極的な造林投資とも読むことが出来る。…

第9章 心に残る話 第43話「俳句と短歌」

下刈の 夏帽並ぶ 大斜面 太陽の日差しと草いきれ。緑の大斜面に、点となる白い日よけが一幅の絵となる。 山下りて 夏めく娘らの 胸豊か 私のところの女子作業員も、あと三年も山で働く頃には第二の人生に出発する。娘たちとの別れは辛いが、幸あれと祝いたい…

第9章 心に残る話 第42話「担当区小唄」

春は嬉しや 野にも山にも 若葉が萌える 燃やしちゃならない 国の山 山火巡視で 西東 チョイト オートバイでぶっとばせ ヒヤヒヤ 夏は嬉しや 造林事業は 直営に請負 可愛いエンジン ひびかせて 植付 下刈 地拵 チョイト 緑の山になれ ヒヤヒヤ 秋は嬉しや コ…

第9章 心に残る話 第41話「収穫調査」

初霜の林道にエンジンの音が高鳴り 旋転する厚い敷砂利に 重心を失うまいと懸命にバイクを操る 山裾は末枯れ 色づいた木の間に 見え隠れする先兵の保安帽は幾筋か あと幾日この地へ歩を運ぶのか 冷気漂う小暗い小径で 息絶え絶えにそんなことどもを語る 山脚…

第9章 心に残る話 第40話「親孝行」

「今から山に行ってくる」と言うと、母が 「水筒と握り飯を持ってゆけ」と言う 「近いあの山ですよ」と指さして言うが どうしても持ってゆけという ちょうど居合わせた兄が 「親孝行だ、持ってゆけ」と小さな声で言うので それではと、握り飯と水筒を持って…

第8章 特別編 第39話「苫前羆(ひぐま)事件(二)」

この巨熊による被害は、僅か二日の間で死者六名、重傷三名となり、北海道史最大の獣害となった。 苫前村は隣接各村長に救護隊の要請を行うとともに、羽幌警察署や御料局羽幌出張所に動員を依頼した。十二日には本部を編成、延べ二百七十人、鉄砲六十丁が集め…

第8章 特別編 第39話「苫前羆(ひぐま)事件(一)」

この事件は、大正四年十一月九日と十日の両日、北海道の開拓部落に突如として起こったもので、我が国最大の獣害であり、羆による殺傷事件として道民を震撼せしめた大惨事である。 事件が起きた場所は、苫前郡苫前村の三毛別(さんもうべつ)御料農地新区画開…

第7章 あの頃の思い出 第38話「忘れた方は思い出して下さい」

北畠八穂作詞 青森営林局の歌 一 大地の愛は 木と生えて 東洋日本 みどり島 本州北端 ヒバとマツ 美き青き森 いとなめる おお 青森営林局 二 冬雪深き 北なれば げき寒 人にわきおこす 誠実の熱 樹に注ぎ 苦難からさえ 宝なす おお 青森営林局 三 一粒の種 …

第7章 あの頃の思い出 第37話「千島森林誌をつくって」

もう十年前にもなるだろうか。秋田出身で社会党闘志だった故人の川俟清音さんが、私の書いた「千島森林誌」を国会で取り上げた。 「千島は、権威ある農林省の帯広営林局がつくった『千島森林誌』によれば、れっきとした国有財産ではないか。総理はこの事実を…

第7章 あの頃の思い出 第36話「ああ硫黄島」

戦後、日本の国土から実質的に除外されたにもかかわらず、国有財産として常に統計書の財産目録に記載されている土地に、沖縄、千島、小笠原諸島の国有林がある。この中の一つである小笠原諸島が、この度、米国から返還されることとなったが、返還後の帰属が…

第7章 あの頃の思い出 第35話「最後の筏流し」

日本でただ一箇所と言われる、米代川の筏流しの歴史は古い。 記録によると、豊臣秀吉が伏見城を築く際、南部藩に秋田スギの供出を命じたが、この時、伐採した木材を筏に組んで米代川を流し、今の能代市から沖出して敦賀港に運んだとされている。 明治に入る…

第7章 あの頃の思い出 第34話「金原明善翁の事績を聞く会の記録」

この金原明善翁に関する講演速記録は、水窪営林署の署長室の金庫に保管されていたものである。 金原明善の瀬尻植林事業に明治二十三年より業務主任として参画し、その後も、金原明善の片腕として活躍された鈴木信一さんが死去の前年(昭和十七年)に話された…

第7章 あの頃の思い出 第33話「森林鉄道」

明治中期の木材搬出は、特殊材以外は川を利用した管流しによったという。 木材を山元で割り、寸甫や穂太木に採材して、堰き止めた水と一緒に流し、下流に組んだ矢来に漂着させる方法だった。 また、冬季には人橇や馬橇によったが、明治四十年には仁鮒から軌…

第7章 あの頃の思い出 第32話「オホーツク海の回想(二)」

昭和十八年、施業案の編成で間宮海峡に面した樺太の泊居事業区に出張した。晴天に恵まれ、あと数日で概況調査が終わろうとした六月三〇日の黄昏時、下流の方からブウー、ブウーと熊よけのラッパ音が聞こえてきた。 戦争が次第に激しくなり、友人や同僚が次々…

第7章 あの頃の思い出 第32話「オホーツク海の回想(一)」

昭和四十年四月の異動で、オホーツク海に面した斜里営林署に勤務することとなった。 考えてみると、オホーツクの海は、私にとって切っても切れない糸で結ばれているように思えてならない。そこで、この思い出の糸をたどってみることにする。 昭和八年に学校…

第6章 地元と国有林 第31話「なめこ栽培」

私が真室川営林署に勤務していた時のことである。大量のブナを択伐で売り払ったことがあるが、伐採して用材を搬出した後、残された枝条が千五百立方近くとなったため、部落ではこれを利用してなめこを栽培することとなった。 杣小屋に十人以上が泊まり込み、…

第6章 地元と国有林 第30話「下戸談話」

山官となって山の事業所勤務を命ぜられたが、当時の山官には酒豪が多く、また、事業所を訪れる人々もほとんどが酒の強者ばかりであった。 歓迎会、送別会、会合の後などはもとより、出張先の宿屋でも必ず宴席が設けられ、酒を強いられる。盃一杯で心臓が破裂…

第6章 地元と国有林 第29話「山の神」

山の神を祭る日取りは、必ずしも定まっていない。正月には初山、二月は春の山祭り、十二月は秋の山神祭が取り行われてきたが、いつのまにか大方の祭事が省かれ、今では事業に着手するときに入山式、終了したときに下山式が行われるに過ぎない。 入山式には鹿…

第6章 地元と国有林 第28話「初雪の木曽谷」

「管理官の急用は、いつも深夜の電話から始まる」 木曽谷の駐在とは会う度毎にこう言われる。本当に申し訳ないと思うが、田島から奧、八百余人の大世帯を世話しているのは営林署の事業用電話しかない。このため、事故が起きるとこうして駐在に電話をかける訳…

第6章 地元と国有林 第27話「ドブロク」

毎年、年の瀬もおしつまる十二月十五日は、村の若い衆が一番心待ちにしている恒例の行事がある。村の家々から集められた米で作ったドブロクを、皆が集まり飲むのである。 もう十七、八年前の話ではっきりとは覚えていないが、私は村の何か役員をやっており、…

第5章 女性から 第26話「男性職員への注文」

つい先頃の婦人雑誌に「夫は妻に何を望み、妻は夫に何を望んでいるか」という記事がありましたが、男性が九割以上を占めている現在の職場で、職場の中でみる男性について私なりに観察し、注文をつけるとしたらどうでしょうか。 毎朝、機械のように出勤して一…

第5章 女性から 第25話「主婦の随想『十二年のくらし』」

「お父さん、もう土岐のやまには、どこにも仕事をするところがないの?」 「うん」 「じゃあ、土岐はすっかり緑になってしまったのね」 「うん、そうらしいな」 「それじゃ、いままで現場で働いていた人たちは、これからどうなさるの?」 「・・・」 これは…

第4章 仕事と趣味 第24話「釣魚賛歌」

渓流の岩陰から、泡立つ淵目がけて愛竿を振る。理屈も何もいらない。それだけで満足である。 川鳥が川面をすれすれに飛んでは岩陰に隠れる。淵の上の梢に止まっているカワセミが真下に飛び小魚をくちばしにはさんでいく。 こんな日はたいてい鈞果良好と判断…

第4章 仕事と趣味 第23話「日本シダの会採取記」

第五回日本シダの会採集会が、屋久島につぐシダの宝庫として知られる薩肥国境の大口市布計国有林において、徳島と九州各県から約四十人が参加して盛大に開催された。 北薩の 布計の深山に 集い来し 吾等シダ人 まなこ輝く 布計駅前から小学校の方に採取に向…

第4章 仕事と趣味 第22話「熊撃ち」

「旦那さん、熊狩りにいかネスか。奧の部落の人方が是非にって」 と前の日の昼下がりに声がかかる。 興味津々である。 早速鉛の実弾を用意し、金かんじき、防寒着等の準備を始める。 翌朝五時、快晴。 頑丈な体つきの若者に交じって、部落の長の命令のもと出…

第4章 仕事と趣味 第21話「スポーツ王国 青森林友」

青森営林局が「青森林友」の名の下にスポーツ各界に目覚ましい活躍を遂げたのは、昭和初期から太平洋戦争が起こった翌年の昭和一七年までである。スポーツ王国を誇った青森林友も、太平洋戦争で息の根を止められた。 もっとも、戦後、野球部やスキー部はいち…

第3章 営林署から 第20話「ある見送り」

私が現場にいた時、一人の署長が退職した。誠実で責任感が強く、本当に人徳豊かな人物であっただけに、突然の退職は惜しまれるところがあった。 いよいよ任地を去る日に、見送りに行くべく単車の準備をしていると苗木が送られてきた。時間が差し迫っていたが…

第3章 営林署から 第19話「奥日光のシカ」

私は、国有林の仕事を通じて、妙に動物たちとつきあうことが多かった。 シカとイタチとウシ。そして、これは間接的ではあるが国際保護鳥のトキである。 シカは狩猟用として、イタチは野ネズミ退治用として、ウシは肉用牛として、それぞれの増殖に携わり、ま…