昭和40年代の営林局機関誌から選んだ「名作50話」

このブログは、昭和40年代に全国の営林局が発行した機関誌の中から、現場での苦労話や楽しい出来事、懐かしい思い出話などを選りすぐり編纂したものです。

第9章 心に残る話 第46話「外野席から」

 昔から、「山官」という言葉があった。

 誰がつけたか知らないが、山を守り木を育てる者の純朴な、また一歩ずつ踏みしめて行く地道さを端的に表した親しむべき愛称である。

 山へ行けば空気もうまいし水も清らかで、本当に身も心も洗い清められる。この清純な環境はすべての人のあこがれであり、自然を愛することは人間の本能的な欲望でもある。

 

私どもが駆けだしの頃は

「木と話が出来なければ一丁前の山官とは言えない」

とハッパをかけられ、また、その通りに努力したものである。

「人間社会の複雑さに災いされず、山官になった我々こそ最も幸せだ」

と自惚れていたのも昔の夢物語となった。

 

 されど、純朴だけが全てではなかった。

あくまでも国有林を管理経営する技術者であるというプライドを持ち、その枠の中で精一杯働き回っていた。

 精魂を打ち込むとともに、めったなことで他人からとやかく言われないよう、肩で風を切って歩くだけの気概を持っていたものである。

昔は就業一筋に、技術を中心として毎日を過ごしてきた。

 したがって、そこには野心も小細工もなく、政治的配慮も極力避け、一途に前進したものである。

 今日のように、前進しているのか後進しているのか分からない、というような誹りを受けなかったのは事実であり、現役の方々も今一度、足元を見直してほしい。

 

また、どこの職場に行ってもあまりにも会議と研修の積み重ねで、事務所には人が一杯いるが、肝心の事業所や現場では閑古鳥が鳴いているような気がしてならない。

 資源的にも、技術的にも恵まれているせいか、一部の人を除いてはあまり力を出し切っていないようにも見受けられる。

 近頃は老眼鏡を愛用するようになったので、視野も狭くピントも外れていると思うが、歯に衣着せぬまま述べさせて頂いた。

 

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