昭和40年代の営林局機関誌から選んだ「名作50話」

このブログは、昭和40年代に全国の営林局が発行した機関誌の中から、現場での苦労話や楽しい出来事、懐かしい思い出話などを選りすぐり編纂したものです。

第2章 営林局から 第12話「保安林買い入れ調査」

昭和二十九年度から始まった保安林買い入れも今年で十四年目。今回の買い入れ予定地は標高四百メートルから千百メートルまでの、約一千ヘクタールの天然林である。

 現地調査は五月末から九月上旬まで、五人の調査員が各人八十日の予定で行う。作業は境界確定から始まり、林相区分の設定、河川、峰、崩壊地などの測量、標準地による立木調査を行う。使われなくなった林業会社の事務所に仮住まいし、各人が寝食を共にする。

 

 刈り払った尾根を歩いていると、クマの糞にお目にかかることが多い。また、クマが腐った木の株を掘り起こし、アリを食べた跡を見かけることもある。

頭数が多いのはサルである。だいたい二十から四十頭ぐらいの群れに出くわすが、一人で山を歩いている時などは、あまり気分のいいものではない。

 数年前、境界標に番号を記入している時、すぐ目の前に、大きなサルがのこのこと現れ、じっと私のことを眺めていた。人間の仕草にさぞや興味がわいたのであろう。

 また、この地方はマムシの産地でもある。朝、二、三匹のマムシが、お互いに喧嘩をする訳でもなく、一箇所に仲良くトグロを巻いていることがある。不幸なことである。彼らは見つかったが最後、その場で皮を引き剥かれ、フキの葉に包まれリュックへと収納される。そして、休憩の際にはこんがりと焼かれ、我々調査員の明日へのエネルギー源となるのである。

   

 現地調査を重ねると、事務所からの通いではどうしても行けないところが出てくる。そうした時の天幕生活も、二日か三日であれば結構楽しめるが、一週間以上と長期に及んだり、連日雨模様であったりすると、いかに山官といえどもうんざりしてくる。外業から来る身体の疲れをとることが出来ず、それ以上に精神的な疲労を覚える。

 ただし、楽しみもある。あまりの奥地であるが故にイワナやヤマメは無数に捕れるし、秋が近づくと天然舞茸を味わうことも出来る。また、ドンコツ(カジカのこと)やアジメ(ドジョウの一種)などはバケツ一杯も収穫出来、これを山椒の葉と醤油で煮れば、手頃なおかずとなる。

 こうした時には疲れも忘れ、山官として楽しい一時を過ごせる。

 

 山の中で毎日を過ごしていると、同じ顔ばかり見ることから、たまに局署からの出張者に出会ったりすると何故か家族のことを思い出し、無性に懐かしさを感じる。

 今年の夏は、デパートでカブトムシが一匹五十円で売られているそうだが、夜、灯りの下にスイカの皮を置いておくと、大きなカブトムシが沢山飛んでくる。

 お盆休みに入ったら、子供達へのおみやげにと思っている。

 

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