昭和40年代の営林局機関誌から選んだ「名作50話」

このブログは、昭和40年代に全国の営林局が発行した機関誌の中から、現場での苦労話や楽しい出来事、懐かしい思い出話などを選りすぐり編纂したものです。

第1章 現場から 第3話「雑草に挑む」

 五時三十分に雨戸を開ける。家の前には標高四百メートルの前岳国有林

 その頂きには朝日が当たり、空は青く澄んで雲ひとつない。

 今日で何日、雨が降らないのであろうか。

 慌ただしく朝食を済ますと車に飛び乗り、作業現場へと急ぐ。林道の終点から、谷川に沿って歩道をさかのぼること一時間、やっと現場にたどり着く。

  休む間もなく鎌研ぎが始まり、十一名がいっせいに、背丈以上もある雑草に挑んでかかる。

  照りつける太陽とむせかえる雑草の匂いが、むんむんと鼻をつく。雑草の中から顔を出すスギの木。太陽の光を浴び、いかにも嬉しそうである。

  仕事始めの頃には聞こえた話し声もいつしか途絶え、ただ、草を刈払う音だけがバサッ、バサッと聞こえるだけである。汗の量と作業の進み具合が比例する。

 

 十時の休憩が来た。

 大きな声で「タバコ」と叫ぶと、早速、腰の水筒を外して飲む。

 うまい。

 近くの同僚にも水を回す。一回りすると最後の者が「班長、アイガトゴワシタ(有難うございました)」と言って水筒を返す。

 喉の渇きをうるおして一服するうちに、作業始めの時間だ。

 「オーイ、かかれ」

と大きな声で叫ぶ。

 元気を取り戻したのか、鎌の音も大きい。太陽は頭の上で容赦なく照りつける。吹く風も蒸し暑い。次第に鎌の音が弱くなってきた頃、一番年長のAさんがお茶の準備にかかる。暑い最中の仕事だけに、昼のお茶をみなが楽しみにする。

 

 「作業やめ」

 やっと昼が来た。

 木陰の涼しいところにあるテントに向かって、皆がぞろぞろと下りてくる。この現場は、幸いにも谷川がそばにあるので大助かりだ。

 顔や手の汚れを洗い落とし、びっしょりと濡れたシャツをザブンと洗うと昼食にかかる。フーフー吹きながら飲む熱いお茶がおいしい。食事が終わると、あちこちで弁当箱を枕に昼寝が始まる。

 疲れをとるために、ひとときでもいいから寝ることにしている。今ではこれが我が班の習慣となっており、昼休みの雑談は禁物。少しでも眠れば昼から調子がいい。

 生まれつき寝つきのいい私は、横になると五分もたたないうちにイビキをかく。

 「はやいもんじゃ、もう眠ったぞ」

 みんながいつもひやかす。

 時計の針が一時をさす。

 誰となく

 「ドーラ、ガンバランナネ」

と言って立ち上がる。

 二時、三時とうだるような暑さが続く。空には雲一つない。

 「雲よ出よ、涼風よ吹け」

と思わず誰かが叫ぶ。

 

 暑い暑いと言っている間に、時計は五時近くになる。太陽も西に大きく傾いている。

 「作業やめ」

 この一言を待ちわびていたのか、皆の顔がゆるむ。汗びっしょりの顔に、目だけが光っている。

 一日の労苦が一目で分かる時だ。

 「今日も暑い中頑張ってくれて、ご苦労さん」 

 心の中で皆にそう言いながら、一列になって山を下りる。

 下刈りの済んだ箇所を通ると、列の一人が言う。

 「ヤツパイ、山はハヨハルタガヨカドナ(やっぱり山は早く下刈りした方がよい)」

 これを受けた一人が

 「ソラ、アタイマエヨ。ハヨシテカキノランコチャネーと昔の人がいうじゃねー(そう、当たり 前よ。早くして間に合わないことはないと・・・)」

と言う。笑い声とともに列が進む。

 

 一杯の焼酎を飲んで、明日もまた頑張りたい。

 

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