昭和40年代の営林局機関誌から選んだ「名作50話」

このブログは、昭和40年代に全国の営林局が発行した機関誌の中から、現場での苦労話や楽しい出来事、懐かしい思い出話などを選りすぐり編纂したものです。

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

第3章 営林署から 第17話「山火事」

四月も下旬に入り、萌黄色の若葉が山々を包み始めると、山火事の危険は一応薄らぐ。 瀬戸内地方の山火事は、三月をピークに一月から三月にかけて集中的に発生しており、四月に入ると急激に減少する。 しかしながら、昭和四十六年四月二十七日昼過ぎ、「大積…

第3章 営林署から 第16話「公売雑感」

公売会場に一歩足を踏み入れると、そこは、タバコの煙がもうもうと立ちこめる別世界。喧噪やかましく、百人を越す業者の人たちの声でざわめく。営林署の係官が札を整理し、結果を発表する直前までこの状態が続く。 「ただ今から入札結果を発表します」 会場…

第3章 営林署から 第15話「えりもの治山事業」

えりもは、今から約三百年前の寛文年間には既に和人が移住し、海藻類や魚介の採取によって生計を立てていたと伝えられる。その頃、現在の国有林はまだ未開地であり、高台はカシワやミズナラ、低地はヤナギやハンノキを主体とする広葉樹林であったが、風雪に…

第3章 営林署から 第14話「出納員哀歌」

営林署の経理課にいると、必然的にやらなければならない仕事の中に支払いがある。 現金出納員として、此方の谷の部落からそちらの野辺の部落へ、山を越え、谷を横切って、国有林の仕事に出役した人達の賃金を支払って回るのである。 また、現場で購入した石…

第2章 営林局から 第13話「林業体操」

午後三時きっかり。 スピーカーから林業体操前奏曲の軽快なメロディが流れてくる。皆が一斉にペンや計算機を置いて立ち上がる。そこで聞き覚えのある局福利厚生課課長補佐の田畑さんの声が入ってくる。 「さあ、元気で林業体操を始めましょう」 続いてあまり…

第2章 営林局から 第12話「保安林買い入れ調査」

昭和二十九年度から始まった保安林買い入れも今年で十四年目。今回の買い入れ予定地は標高四百メートルから千百メートルまでの、約一千ヘクタールの天然林である。 現地調査は五月末から九月上旬まで、五人の調査員が各人八十日の予定で行う。作業は境界確定…

第2章 営林局から 第11話「狐の山案内」

ある営林署の林況調査に出かけたときのことである。 いつものように案内人を一人連れ、午前中は何事もなく調査を終わり、本流の河原まで降りて昼食をとった。真夏の暑い日であった。案内人がイワナを見つけて手づかみにし、晩の肴にということで笹の葉に包ん…

第2章 営林局から 第10話「五つの湖に女性の名を残す」

国有林の「事業図」は営林署ごとに作成され、地形や森林の現況が克明に記入されている。職員が山に入るとき、姿なき山案内として大切な役目を果たすものである。 かつては、営林局計画課の職員が、半年あまりも山の中にテントを張り、現地踏査をして事業図を…

第2章 営林局から 第9話「黒部の測量隊」

ここに、十数人のたくましい男たちがいる。 彼らは五年間にわたって、夏の数十日を人跡未踏というべき僻村の山で過ごした。道をつけ橋を渡し、テントを張り便所を作り、自家発電所とドラムカンの浴場までしつらえると、いよいよ仕事にとりかかる。 その仕事…

第1章 現場から 第8話「担当区主任」

営林署の担当区は、たいがい本署から離れた村落に位置し、比較的小さな部落にあることが多い。部落の住民とは各種事業の雇用や、自家用薪炭の売払などで密接に結ばれているが、従前のように官尊民卑の気質はなくなったとしても、純朴な住民にはまだまだ担当…

第1章 現場から 第7話「わしらの植えた山はどうなったろう」

明治三二年から大正十年までの国有林野特別経営事業は、我が国はもとより、世界の林政史上においても特筆すべき大事業であった。この事業の完成によって、国有林経営の基礎が出来上がり、今日の国有林野事業特別会計の大きな財源となっていることは今更言う…

第1章 現場から 第6話「冬のパイロットフォレストを守る人たち」

標茶営林署から二十二キロメートル。湿原地帯に阻まれたため、かつては人跡未踏と言われたこの無立木地も七千二百ヘクタール余りの巨大な造林地となった。 事業の最盛期にはたくましい機械の音に加え、連日、見学に訪れる人たちで活気を呈するこのパイロット…

第1章 現場から 第5話「昼のいこい」

担当区主任の楽しみの一つに、現場の作業員と食べる昼食がある。 午前中の仕事の疲れをとり、空腹を満たす。この時間の仕事の話に混じった雑談がまた面白いもので、飲む話から食べる話、遊ぶ話にさては女性の話と、時がたつのも忘れるほどである。 「主任さ…

第1章 現場から 第4話「ナンコ」

発電所が鳴らす五時のサイレンが聞こえてくると、短い冬の日の太陽は、早くも峰筋の保護樹帯の上に傾いていた。 二十ヘクタールに及ぶこの小班の植え付けは今日で全部終わり、明日からの作業は反対側の谷へと移動する。 「寒いなあ、一杯やろうか。今日でこ…

第1章 現場から 第3話「雑草に挑む」

五時三十分に雨戸を開ける。家の前には標高四百メートルの前岳国有林。 その頂きには朝日が当たり、空は青く澄んで雲ひとつない。 今日で何日、雨が降らないのであろうか。 慌ただしく朝食を済ますと車に飛び乗り、作業現場へと急ぐ。林道の終点から、谷川に…

第1章 現場から 第2話「不思議な灯」

昭和二七年十月。当時私は、鳥取営林署管内の霧ヶ滝森林鉄道敷設工事の監督補助員として、主任と共に現場近くの山小屋に起居していた。 バスの終点である田中部落から二キロ奧に貯木場があり、そこから森林鉄道で再び二キロ上がった川向かいにその山小屋があ…

第1章 現場から 第1話「ある入山日」

深い雪に埋もれたここ金木戸にも、ようやく春が訪れた。四月一日、神岡営林署金木戸製品事業所の入山日である。 標高九百九十メートルにある中の又事務所の積雪は五〇センチほどであるが、標高千三百二十メートルに位置する作業員宿舎は例年、三メートルもの…